目 的:ぶどう膜悪性黒色腫は成人の代表的な眼内悪性腫瘍であるが,眼内で腫瘍組織が広範囲に壊死を生じ,全眼球炎様の所見を呈した報告はきわめて少なく,本邦では1例のみ報告がある.今回我々はneodymium(Nd):YAGレーザー照射後に眼内炎様の所見を呈し,眼球摘出術に至ったぶどう膜悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.
症 例:85歳,男性.X年7月に近医眼科で右眼の後発白内障に対しNd:YAGレーザーを照射された.レーザー照射前の視力は右(0.5)であり,右眼底に加齢黄斑変性を疑う所見を認めた.同年10月に突然の右眼の眼痛および頭痛が生じ前医を受診したところ,視力は右光覚なし,眼圧は右79 mmHgで,硝子体出血と眼内腫瘍が疑われた.11月に北海道大学病院眼科を初診し,右眼は毛様充血がみられ,前房内には著明なフィブリンの析出があり,眼底は透見不能であった.Bモード超音波検査で毛様体から硝子体腔にかけて腫瘍を認めた.腫瘍部は磁気共鳴画像法(MRI)のT1強調画像では高信号,T2強調画像では等~低信号であり,不均一な造影増強効果を示した.ぶどう膜悪性黒色腫の臨床診断で同月に右眼の眼球摘出術を施行した.病理組織学的には前房に炎症細胞がみられ,隅角にフィブリンが析出していた.眼内にメラニン色素を有する異型細胞が充実性に増殖し,メラノファージの浸潤と腫瘍内部の壊死がみられた.眼球摘出後の経過に特記すべき事項はなく,眼部の痛みは消失した.
結 論:ぶどう膜悪性黒色腫は,Nd:YAGレーザーの照射後に急激に増大し,眼内炎様所見を呈する可能性がある.(日眼会誌128:783-788,2024)