論文抄録

第128巻第5号

症例報告

網膜疾患に転換性障害が合併した3症例
早川 卓浩1), 気賀沢 一輝2), 秋山 邦彦1)3), 角田 和繁1)3)
1)国立病院機構東京医療センター眼科
2)杏林大学医学部眼科学教室
3)国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部

背 景:非器質性視覚障害のうち,何らかの心理的要因を契機に発症する症例は転換性障害と呼ばれ,特に青年期以降に発症した場合の予後は不良である.今回,既存の網膜疾患に合併した転換性障害の3例を経験したので報告する.
症 例:症例1は21歳,女性.15歳時にアトピー皮膚炎による両眼の白内障と網膜剝離が生じ,両眼手術後に矯正視力は両眼ともに0.7まで改善した.術後経過は良好であったものの,17歳以降に視力が低下し,右は手動弁,左は0.01まで悪化した.症例2は55歳,女性.乳癌の治療中,48歳時に右眼の急激な視力低下(手動弁)とそれに続く左眼の視力低下(0.01)を認めた.右眼については周辺部網膜血管の狭細化と全視野網膜電図の異常を認めたが,左眼に異常はみられなかった.症例3は43歳,女性.15歳時にぶどう膜炎と診断され両眼に続発性網膜色素変性の所見がみられた.経過中に右眼の黄斑変性が進行し,視力は(0.3)から光覚弁まで悪化した.左眼に黄斑変性の進行はみられなかったが,視力は手動弁まで低下した.いずれの患者も,長期にわたり強い心理的ストレスを抱えており,既存の網膜障害に転換性障害による視覚症状が重複したものと考えられた.
結 論:既存の網膜疾患およびその悪化が心理的ストレスとなり転換性障害が重複発症し,視機能が著しく低下した症例を報告した.同様の重複例は他のさまざまな眼疾患でも起こりうると考えられた.(日眼会誌128:421-430,2024)

キーワード
非器質性視覚障害, 転換性障害, 心因性視力障害, 網膜疾患, 重複
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