背 景:メトトレキセート(MTX)投与中には日和見感染症や悪性疾患などの発症に注意する必要がある.今回,MTX内服中に発症したサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の治療後に,眼内悪性リンパ腫を発症した症例を経験したので報告する.
症 例:73歳,女性.左眼のぶどう膜炎の精査加療目的で当院を紹介受診した.矯正視力は左0.3で,豚脂様角膜後面沈着物(KP),中等度の硝子体フレア,および周辺網膜に白色滲出斑を多数認めた.関節リウマチに対してMTXを14 mg内服中であった.前房水ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)検査でCMVが検出されたためCMV網膜炎と診断し,抗ウイルス薬治療により治癒が得られた.しかし,3年後に左眼の霧視の自覚が強くなり,豚脂様KPの再燃,前房蓄膿,高度の硝子体フレア,後極から周辺にかけて多発性の白色滲出斑を認めた.眼内の細胞を採取して細胞診を行った結果,異常リンパ球を多数検出した.眼内悪性リンパ腫として,全身化学療法とMTX硝子体内注射を実施したところ病状は改善し,現在経過良好である.
結 論:本症例ではMTXを長期に内服していることにより免疫異常が起こり,CMV網膜炎および眼内悪性リンパ腫を発症したと考えられる.MTXを長期に投与している症例では日和見感染症だけでなく,悪性疾患も念頭に置いて診療にあたる必要がある.(日眼会誌128:431-439,2024)