背 景:眼球運動制限を呈する患者のうち筋ジストロフィ疾患による例は少数である.その患者の外眼筋に関する病理報告はまれである.
症 例:症例1:23歳女性.40プリズムジオプトリー(以下,PD)の外斜視と軽度の右眼瞼下垂を主訴とした.両眼に内転制限を認め,慢性進行性外眼筋麻痺が疑われた.右眼の斜視手術の一環として切除した内直筋を光学顕微鏡で検査すると,赤色ぼろ線維に相当する筋線維を含む筋萎縮像を認めた.手術14か月後には8 PDの外斜位であった.症例2:34歳男性.60 PDの外斜視と両側性の眼瞼下垂を認めた筋緊張性ジストロフィ患者.両側性の内転制限を認めた.外斜視と眼瞼下垂の治療目的で左眼を手術した.内直筋の光学顕微鏡像では,広範に著明に萎縮した,多数の核を伴う筋線維が認められ,脂肪·線維組織の増大を見出した.それに比べ眼瞼挙筋の筋萎縮は軽度であった.手術1か月後には12 PDの,8か月後には25 PDの外斜視へと戻ったが,自覚的には十分な改善をみたままであった.
結 論:筋原性眼球運動障害に対する斜視手術ならびに外眼筋の病理学的検索は,時期を選べば治療と診断に有用である.(日眼会誌116:657-663,2012)