論文抄録

第119巻第3号

評議員会指名講演III

第118回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演III
眼疾患メカニズムの新しい理解
網膜血管障害の新しい理解
鈴間 潔
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科視覚科学

I 糖尿病網膜症の新しい治療標的分子
最近,網膜血管新生においてhypoxia-inducible facterを介さない独立して働く因子としてコハク酸が報告された.手術時に採取した硝子体中のコハク酸濃度を検討したところ,増殖糖尿病網膜症において有意に上昇していた.また近年では,増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の際に抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)薬を術前投与することが広く行われているが,抗VEGF治療を行った群ではコハク酸濃度が正常レベルまで低下していた.コハク酸がVEGFを誘導することはすでに報告されていることから,VEGFによるコハク酸へのポジティブフィードバック機構の存在が示唆された.
II 網膜中心静脈閉塞症の病態の新しい理解
日本発の眼底血流解析装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laser speckle flowgraphy: LSFG)を用い網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion:CRVO)の網膜血流を評価したところ,抗VEGF療法により黄斑浮腫と血流の両方が改善する症例が予後良好であることを見出した.その後の症例を増やした検討では,最終的に虚血型になった症例の平均血流速度は初回抗VEGF治療の前後とも健眼(僚眼)の50%を超えておらず,そのような場合に予後不良であることが示唆された.LSFGを用いて血流を評価することは,病状把握および治療を行ううえで有用である.
III 眼疾患メカニズムの解明から再生医療へ
網膜無灌流領域の治療は網膜光凝固術が主流であるが,虚血周辺網膜を焼き尽くすこの治療法は破壊的で侵襲も大きい.形成されてしまった無灌流領域には速やかに正常血管の再生を行うことが理想的な治療法といえる.網膜無灌流領域のre-vascularizationを促進させ網膜を破壊することなく治療する方法を開発するため,induced pluripotent stem cell(iPS細胞)から作製した無血管な網膜に血管網を構築することを目指している.(日眼会誌119:216-227,2015)

キーワード
糖尿病網膜症, コハク酸, 網膜中心静脈閉塞症, レーザースペックルフローグラフィー, iPS細胞, 血管再生
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