加齢黄斑変性は失明を引き起こす主要な原因疾患の一つで,網膜色素上皮(RPE)の機能不全を原因としている.加齢黄斑変性の治療の一つとして,病的なRPEを健常なRPEと交換するRPE移植がこれまで研究されており,最近ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)がRPE移植の移植細胞源として注目されている.本論文では,RPE移植の移植細胞源としてヒトiPS細胞由来RPEの細胞シートを作製し,前臨床研究としてその有効性,安定性,安全性を評価した.作製した細胞シートは,人工基質を含まない単層構造で,生体RPEと同様のRPE特有遺伝子の発現,細胞間の密着結合とそれに起因する成長因子の極性分泌,貪食能,遺伝子発現パターンを示した.また,自己のサルiPS細胞由来RPE細胞シートのサル網膜下移植では,免疫拒絶や腫瘍形成は認めなかった.以上の結果より,自己ヒトiPS細胞由来RPE細胞シートはRPE移植の有用な移植細胞源となりうることが示された.(日眼会誌120:754-763,2016)