論文抄録

第121巻第9号

症例報告

抗programmed cell death 1抗体ニボルマブ投与中にぶどう膜炎と脱色素を生じた1例
水井 徹1), 臼井 嘉彦1), 原田 和俊2), 毛塚 剛司1), 後藤 浩1)
1)東京医科大学臨床医学系眼科学分野
2)東京医科大学臨床医学系皮膚科学分野

目 的:転移性悪性黒色腫に対する抗programmed cell death 1(PD-1)抗体による治療中にぶどう膜炎と脱色素を生じた1例を報告する.
症 例:59歳の男性.足底に生じた悪性黒色腫の肺転移に対してニボルマブによる治療開始後18日目に霧視が出現し,眼科を受診.両眼に前房内炎症細胞,線維素の析出,虹彩後癒着がみられた.眼底には蛍光眼底造影検査および光干渉断層計像で異常所見はみられなかった.ヒト白血球型抗原(HLA)はB51とDR4が陽性であった.ニボルマブによる治療は中止せず,副腎皮質ステロイドの点眼,結膜下注射により虹彩炎は改善した.しかし,ニボルマブ投与2か月後から頭部の脱毛および白毛化,20か月後から夕焼け状眼底が出現した.ニボルマブを30クール終了した時点で肺転移の増悪なく,虹彩炎の再発もない.
結 論:本症は抗PD-1抗体により抗原提示細胞とT細胞のPD-1/PD-1リガンド経路を阻害することで免疫作用が増強し,ぶどう膜炎が発症した可能性が考えられた.今後,抗PD-1抗体による治療の普及に伴い,ぶどう膜炎発症例の増加の可能性があり,留意が必要である.(日眼会誌121:712-718,2017)

キーワード
ニボルマブ, 抗programmed cell death 1(PD-1)モノクローナル抗体, ぶどう膜炎, 脱毛, 白毛化
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〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1 東京医科大学臨床医学系眼科学分野 水井 徹