背 景:同種骨髄移植後の移植片対宿主病(GVHD)による眼症状として,ドライアイが最も多いことが知られている.一方,偽膜性結膜炎は急性GVHDの眼症状として比較的まれな眼合併症である.我々は,骨髄移植後100日以上が経過した後に偽膜性結膜炎発症を契機にGVHDと診断された小児の1例について報告する.
症 例:9歳女児.眼脂の増加があり,細菌性結膜炎,アレルギー性結膜炎として近医で治療を受けたが改善せず,精査目的で当科を受診した.両眼瞼結膜に偽膜形成を認め,半年前に骨髄移植が行われていたことから眼GVHDと考えた.全身倦怠感と肝機能異常,血液のpolymerase chain reaction(PCR)検査でEpstein-Barrウイルス(EBV)の増幅がみられ,小児科ではウイルス血症と診断されており,副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の全身投与は困難と判断された.副腎皮質ステロイドとタクロリムスの局所投与,偽膜除去を行ったが,右眼の上下の眼瞼結膜の癒着が進行し開瞼困難となった.小児科と相談のうえプレドニゾロン全身投与を追加したが改善なく,タクロリムス全身投与を開始したところ結膜の炎症は軽快した.またウイルス血症によると考えられていた全身倦怠感,肝機能異常は消失した.
結 論:骨髄移植後100日以降に偽膜性結膜炎を呈した眼GVHDの小児例を経験した.副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の局所投与が奏効しない場合には移植を行った診療科と連携し,副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の全身投与を検討すべきである.(日眼会誌122:766-771,2018)