論文抄録

第122巻第11号

受賞論文総説

平成29年度日本眼科学会学術奨励賞
病的近視眼における小児期の眼所見の検討
横井 多恵
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野

病的近視は東アジア先進諸国における,失明の主要疾患となっている.しかし,小児期に軸性近視が強度となった場合,将来,病的近視に至るかどうかは,現時点では明確な結論が出せない状態である.このため我々は,成人以降に病的近視による眼合併症を来した患者のうち,初診時年齢15歳以下,および経過観察期間20年以上を満たす病的近視眼について,小児期の眼所見を後ろ向きに解析し,将来の病的近視発症を示唆する特徴が,小児期にあるかどうかを調べた.この結果,成人以降に病的近視による眼合併症を来した35眼中29眼(83%)では,小児期にすでにびまん性萎縮の形成があり,残りの6眼(17%)は豹紋状眼底変化のみであった.小児期のびまん性萎縮は視神経乳頭周囲に限局していた.次に,乳頭周囲びまん性萎縮の本態を解明するため,swept-source光干渉断層計を用いて,乳頭周囲びまん性萎縮を有する小児の眼底断層像を解析した.結果,乳頭周囲びまん性萎縮を有する21名の小児では,全例が視神経乳頭耳側において突然に高度に脈絡膜が菲薄化していた.中心窩から2,500 μm鼻側の脈絡膜厚のcut off値を60 μm未満とした場合,乳頭周囲びまん性萎縮を有する小児を感度76%,特異度100%で同定できることが示された.乳頭周囲びまん性萎縮は将来の病的近視発症を予測する重要なサインの可能性がある.また乳頭周囲びまん性萎縮を有する小児を同定するうえで,乳頭耳側の脈絡膜厚計測の有用性が示唆された.(日眼会誌122:859-867,2018)

キーワード
乳頭周囲びまん性萎縮, 病的近視, 脈絡膜厚, 光干渉断層計
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