論文抄録

第123巻第11号

受賞論文総説

平成30年度日本眼科学会学術奨励賞
治療適応となる重症未熟児網膜症の発症予測
有馬 充
九州大学大学院医学研究院眼科学分野

未熟児網膜症(ROP)は発達途上の網膜に生じる血管増殖性疾患である.ROP進行による視機能障害を防ぐためには適切なタイミングで治療を行うことが肝要であるため,治療適応となる重症ROP(treatment-requiring ROP:TR-ROP)の発症を生後早期の段階で予測できれば臨床上非常に有益である.ROPの病態の中心は網膜低酸素であり,組織酸素濃度は循環呼吸動態によって規定される.したがって我々は過去9年間九州大学病院においてROPスクリーニング検査を受けた新生児418人(在胎週数32週以下または出生体重1,500 g以下)の診療録を後ろ向きに調査し,循環呼吸不全を来す因子の中からTR-ROP発症と関連する因子の同定を試みた.全418人中,TR-ROPは76人(18.2%),治療を要さず自然消退したROPは119人(28.5%),ROP未発症は223人(53.3%)であった.多変量ロジスティック回帰分析の結果,全スクリーニング患児からのTR-ROP発症と,ROP発症患児からのTR-ROP発症において,在胎週数,晩期循環不全の既往,長期陽圧呼吸管理の3つが統計学的に有意な関連を示し,予測因子となることが示唆された.続いて,本解析で同定したTR-ROP関連因子の予測能を評価した.在胎週数と出生体重に,晩期循環不全の既往と長期陽圧呼吸管理の2つの因子を加えてreceiver operating characteristic curve(ROC曲線)を作成したところ,area under the curve(AUC)に有意な改善が認められた.これらの結果から,晩期循環不全の既往歴があり長期陽圧呼吸管理をされている早産児では,TR-ROPを発症する可能性が高くなることが示唆された.(日眼会誌123:1013-1019,2019)

キーワード
未熟児網膜症, 網膜低酸素, 晩期循環不全, 陽圧呼吸管理
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