論文抄録

第123巻第11号

受賞論文総説

平成30年度日本眼科学会学術奨励賞
網膜静脈閉塞症における黄斑部血流と視力
若林 卓
大阪大学大学院医学系研究科眼科学

網膜静脈閉塞症(RVO)は,網膜静脈に閉塞が生じることにより,網膜出血や黄斑浮腫,無灌流領域など多彩な病態を呈する疾患である.黄斑浮腫に対しては,抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の硝子体内注射が第一選択となってきている.しかし,治療により黄斑浮腫が消退した後も視力低下が遷延する症例が存在する.その原因を解明するため,網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)85眼において光干渉断層計angiographyを用いて黄斑浮腫消退後の黄斑部3×3 mm領域の網膜表層および深層の網膜血流領域を定量し,視力との関連を検討した.その結果,多変量解析(ステップワイズ法)で,深層の網膜血流領域が視力に最も有意に相関した(R2=0.33,p<0.001).網膜中心静脈閉塞症(CRVO)においても黄斑部の網膜血流領域が視力に有意に相関した.次に,48眼のRVOを対象に,抗VEGF治療前から治療後12か月に至るまでの黄斑部血管密度および中心窩無血管帯(FAZ)の経時的変化を検討した.その結果,大部分の症例では黄斑部血管密度およびFAZ面積は12か月間で一定に保たれた.しかし,網膜表層と深層の血管密度が有意に減少した症例がそれぞれ6眼(13%)と10眼(21%)あり,これらの症例では黄斑浮腫の再発回数が有意に多く視力改善が乏しかった.以上より,黄斑浮腫の再発を防止するとともに,黄斑部血流を維持することがRVOの視力予後に重要であると考えられた.(日眼会誌123:1054-1064,2019)

キーワード
網膜静脈閉塞症, 網膜静脈分枝閉塞症, 網膜中心静脈閉塞症, 黄斑浮腫, 光干渉断層計angiography
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