論文抄録

第123巻第3号

特別講演I

第122回 日本眼科学会総会 特別講演I
糖尿病網膜症の治療戦略―現状と未来
山下 英俊
山形大学大学院医学系研究科眼科学

I.糖尿病網膜症診療の現状
現在,糖尿病患者数は約1,000万人,糖尿病網膜症患者数は約300万人,増殖糖尿病網膜症患者数は約70万人,糖尿病黄斑浮腫患者数は約65万人と推計される.日本の視覚障害の原因で糖尿病網膜症は3位(12.8%)である.糖尿病網膜症は働き盛り世代に視力障害を引き起こし社会的負荷となる.健康寿命延伸のために視力保持の戦略が必要である.
II.糖尿病網膜症・黄斑浮腫の発症,進展リスクと分子病態
糖尿病では高血糖などの全身状態により網膜毛細血管内皮細胞障害が引き起こされ,続いて起こる循環障害,網膜虚血が網膜組織を障害する.分子病態はポリオール代謝経路亢進,後期終末糖化産物の蓄積,内因性ジアシルグリセロール産生増加に伴うプロテインキナーゼC活性化,活性酸素,炎症に関与する血管内皮増殖因子,interleukin-6などのサイトカイン,生理活性物質が関与する.
III.治療戦略
治療戦略として,高血糖,高血圧など全身因子管理に加えて,網膜症の分子病態に対する治療戦略の確立が重要である.増殖網膜症による視力低下治療を目的とした硝子体手術は視力障害進展前に施行することでより視力予後を良くする.糖尿病黄斑浮腫治療には炎症の分子病態に対する抗炎症薬,副腎皮質ステロイド薬の眼局所投与と他の治療法との組み合わせが必要である.
IV.今後の課題
個々の患者で適切な医療をエビデンスをもって選択できるテイラーメイド医療の実現に向けた戦略を実効あるものにする必要がある.(日眼会誌123:203-225,2019)

キーワード
糖尿病網膜症, 治療戦略, 分子病態, 炎症, 副腎皮質ステロイド点眼
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