目 的:近年,涙液分泌が角膜表面の温度変化に大きく関連していることが明らかとなっており,眼表面温度の重要性が注目されている.今回の研究では,特に高齢者における加齢による眼表面温度の影響を調べるため,偽水晶体眼における眼表面温度について検討した.
対象および方法:対象は白内障手術後1か月において矯正視力が0.8以上の患者69名98眼(男性25名,女性44名,平均値±標準偏差:73.7±5.2歳)である.前眼部サーモグラファーを用いて開瞼直後の眼表面温度および10秒間開瞼中の眼表面温度変化を測定した.さらに涙液インターフェロメトリーを用いて非侵襲的涙液層破壊時間(NIBUT)を測定し,涙液不安定群(NIBUT≤5秒)と涙液安定群(NIBUT>5秒)に分類した.
結 果:開瞼直後の眼表面温度は,年齢と有意な負の相関を認めた(r=-0.222,p<0.05,Pearson順位相関係数).また,眼表面温度の男女差はなかった.一方,眼表面温度変化は加齢に伴い小さくなった(r=0.239,p<0.05).各パラメータとの相関は,眼表面温度は年齢(r=-0.222,p<0.05)と,眼表面温度変化は年齢(r=0.239,p<0.05),性別(r=0.352,p<0.001)およびNIBUT(r=0.619,p<0.0001)と有意な相関を示した.涙液動態による比較では,涙液不安定群は,安定群に比べて有意に年齢が若く,女性に多く(p<0.05,p<0.001,対応のないt検定),眼表面温度変化が大きかった(p<0.001).
結 論:60歳以上の偽水晶体眼において,眼表面温度は年齢と相関することが明らかになった.眼表面温度の研究では,加齢による影響も考慮する必要があると考えられる.(日眼会誌124:472-478,2020)