急性網膜壊死は,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)を含むαヘルペスウイルス亜科に属するウイルスによって引き起こされる.ウイルスの中には,宿主由来の長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)を自らの増殖に活用しているものがある.そこで,本研究では急性網膜壊死に対する抗ウイルス薬療法の新規治療標的としてlncRNAに着目した.
初めに,HSV-1を感染させたマウス視細胞株である661W細胞を用いて,感染後に発現誘導される宿主由来lncRNAを網羅的に同定した.これらのlncRNAの中で,急性網膜壊死モデルマウスの網膜で高発現していたU90926に着目した.HSV-1を感染させたU90926ノックダウン細胞では,HSV-1のDNA複製および増殖が顕著に抑制された.また,HSV-1感染後U90926ノックダウン細胞の生存率は,対照細胞に比べて有意に増加した.
さらに,ヒトゲノム上に2つの転写物(1,955塩基および592塩基)を持つヒトU90926遺伝子を同定した.HSV-1を原因ウイルスとする急性網膜壊死患者の硝子体液中では,長いヒトU90926転写物が著明に増加し,転写物量は硝子体液中のウイルス量ならびに最終矯正logarithmic minimum angle of resolution(logMAR)視力と強い正の相関があることが分かった.
これらの結果から,lncRNA-U90926はHSV-1を原因ウイルスとする急性網膜壊死に対する抗ウイルス薬療法の新規治療標的になり得ることが示唆された.(日眼会誌126:948-957,2022)