真核生物の細胞内にはミトコンドリア,小胞体,Golgi体,リソソームなどのさまざまなオルガネラ(細胞小器官)が備わっているが,水晶体を構成する細胞の最終分化の過程において,それらのオルガネラはすべて分解され消失する.この「全オルガネラ分解現象」は100年以上前から知られていたが,その分子機構や意義は長らく不明であった.我々は,ゼブラフィッシュやマウスを用いた解析の結果,水晶体の全オルガネラ分解現象は,通常の細胞でオルガネラ分解を担うオートファジーではなく,サイトゾルに存在するホスホリパーゼA/アシルトランスフェラーゼ(PLAAT)ファミリー蛋白質によること,また,その作用は水晶体の透明化に必須であることを見出した.さらに,PLAATは損傷オルガネラを選択的に分解すること,水晶体における生理的な損傷オルガネラの出現はヒト遺伝性白内障の原因遺伝子産物である熱ショック転写因子heat shock transcription factor 4(HSF4)に依存することも見出した.本成果は水晶体の透明化の基本的な原理を解明しただけでなく,オートファジーによらないオルガネラの分解機構を世界で初めて発見したものである.(日眼会誌127:1050-1054,2023)