斜視は古くから知られた疾患であるが,全身麻酔がなかったころには,手術は直筋の切腱術が主流で続発性斜視が多く発症した.そのため斜視手術は「結果が不安定で,痛くて,恐ろしく,危険な手術で,行うべきではないもの」と長く考えられていた.
しかし,全身麻酔や外眼筋の強膜への縫合が行われるようになると,斜視手術は急速に世界中に広まった.また1990年代以降,磁気共鳴画像法(MRI)が斜視診療に用いられるようになると,外眼筋の解剖だけでなく機能への理解が深まり,新しい疾患概念や治療方法が確立された.特に上斜筋麻痺は小児の上下斜視の原因として最も頻度の高いものであるが,臨床的診断と画像的診断の乖離が明らかになった.また,既往歴の不明な斜視においてはMRIや前眼部光干渉断層計(OCT)が手術歴を推測するために利用されるようになった.
その一方,新たな課題も出現している.特に社会のデジタル化に伴い近視が増加すると,近視に関連する斜視が増加し,さらには携帯型デジタルデバイスの過剰使用と若者の後天共同性内斜視の関連が取りざたされるようになった.生活スタイルの変化は後戻りすることはなく,今後の大きな課題である.
過去には,斜視は「大人になってから治療するもの」と言われ,高齢になると「もう手遅れだ」と言われていた.斜視は一度治療すれば二度と発症しない疾患ではない.人生100年時代を迎えて,子どもから高齢者までを対象とした,生涯にわたる両眼視機能管理が必要である.(日眼会誌129:305-328,2025)