論文抄録

第116巻第11号

平成23年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説

中心性漿液性脈絡網膜症における脈絡膜観察の意義
丸子 一朗
福島県立医科大学医学部眼科学講座

中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は,フルオレセイン蛍光眼底造影で網膜色素上皮(RPE)レベルの漏出を伴うことからRPE異常がその本態と考えられてきたが,1990年以降のインドシアニングリーン蛍光眼底造影による研究で,その一次的原因は脈絡膜血管異常,特に脈絡膜血管透過性の亢進にあることが示された.さらに2008年に報告されたenhanced depth imaging optical coherence tomography(EDI-OCT)の手法を用いて脈絡膜が非侵襲的に観察できるようになりさまざまな黄斑疾患の脈絡膜研究が進み,CSCでは脈絡膜肥厚が生じていることが明らかになった.またその僚眼においても約6割の症例では脈絡膜の肥厚が観察された.
我々は治療による脈絡膜の反応について,典型CSCに対してレーザー網膜光凝固術(LP)および慢性型CSCに対してベルテポルフィン半量光線力学的療法(PDT)を実施した症例について,それぞれEDI-OCTの手法で観察した.両治療法ともに漿液性網膜剥離は改善したが,中心窩下脈絡膜厚はLPを実施された症例では不変であったのに対し,PDTを実施された症例では,2日後には一過性に増加するものの,治療1か月後までにはベースラインの8割程度まで減少することが示された.またこの減少は1年後でも持続していることも,その後の経過観察で明らかになった.以上のことから,CSC治療においてLPはRPEからの漏出を減少させるだけだが,PDTではCSCの一次的原因である脈絡膜に直接作用し,血管透過性を抑制するため,結果的に漿液性網膜剥離を減少させると考えられた.
EDI-OCTでは非侵襲的に脈絡膜の状態を簡便に評価できる.CSCと同様に他の脈絡膜異常を伴ったさまざまな疾患,Vogt-小柳-原田病や加齢黄斑変性,強度近視眼などにおいても他の方法では得られない情報を取得可能であった.脈絡膜画像研究は今後病態理解や治療効果判定に応用され,黄斑疾患研究の基礎の一つとなると思われる.(日眼会誌116: 1062-1079,2012)

キーワード
中心性漿液性脈絡網膜症, 光干渉断層計, 脈絡膜厚, 光線力学的療法, 脈絡膜血管透過性亢進
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