論文抄録

第116巻第3号

特別講演II

第115回 日本眼科学会総会 特別講演II
ポリープ状脈絡膜血管症
湯澤 美都子
日本大学医学部視覚科学系眼科学分野

ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:PCV)は網膜色素上皮下の異常血管網とポリープ状病巣を特徴とする疾患で,滲出型加齢黄斑変性の特殊型に分類されているが,病態と治療法については不明な点が多い.著者らはPCVの病態,臨床所見と治療法について検討した.
1.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanine green angiography:IA)所見
PCVはIAで異なった2種類の造影パターンを示す.第1は流入血管と流出血管があり,血管網は脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)の特徴を有し,異常血管網辺縁の血管の一部が拡張,蛇行して,ポリープ状に見える.第2は流入および流出血管が認められず,異常血管網を構成する血管は数が少なく,異常血管の変形がポリープ状に見える.前者はCNVの変型でありpolypoidal CNV,後者は脈絡膜の血管異常と考えられ狭義PCVである.
2.狭義PCVの病理組織学的所見
硝子体手術で抜去した狭義PCVの病理組織学的特徴は血管の拡張とヒアリン化,強い血漿成分の滲出性変化,基底膜様物質の沈着,乏しい肉芽組織であった.拡張したヒアリン化血管はBruch膜の下に確認された.狭義PCVは脈絡膜の硝子様細動脈硬化に基づく疾患であると考えた.
3.光干渉断層計所見
Polypoidal CNVでは流入血管に一致してBruch膜を示すラインに断裂があり,断裂部には低反射が認められた.網膜色素上皮を示す高反射ラインは不規則に隆起し,隆起部は太い異常血管とポリープ状病巣に一致していた.Polypoidal CNVでは流入血管はBruch膜の断裂部を通り,Bruch膜と網膜色素上皮の間で異常血管網を形成し,先端のポリープ状病巣が網膜色素上皮を突き上げており,網膜色素上皮下CNVの変型と考えた.
狭義PCVの異常血管網起始部付近で,脈絡膜側に屈曲し下面に高反射物質が付着したラインがみられた.異常血管網に相当する部ではそのラインと網膜色素上皮を示すラインの間に狭い中等度反射帯があり,中等度反射帯が網膜色素上皮を押し上げていた.起始部では直上の網膜色素上皮を示すラインは陥凹していた.病理組織学的所見から考えて,このOCT所見は脈絡膜血管の拡張と滲出によって脈絡膜圧が上がり,異常血管網の部では網膜色素上皮を押し上げていると考えた.一方,起始部では脈絡膜圧が低く,上方の網膜色素上皮が陥凹していると考えた.
4.遺伝子学的検討
遺伝子学的にはage-related maculopathy susceptibility gene 2(ARMS2)A69Sのリスクホモを示す患者の割合はpolypoidal CNVでは対照に比較して有意に多く(p<0.0001),狭義PCVでは差がなかった.ARMS2(A69S)は加齢黄斑変性と関連が深いことからpolypoidal CNVは加齢黄斑変性と関連が深く,狭義PCVとは病態の異なる疾患であると考えた.
5.中心窩PCVの治療
視力0.6以下の中心窩PCVに対する光線力学療法(photodynamic therapy:PDT)1年後では平均視力は改善した.PDT前視力が良いこと,小さい病変,ポリープ状病巣が中心窩にないことが視力の改善する要因であった.しかし2年後,3年後では視力は低下した.狭義PCVではPDT後も残存した異常血管網の辺縁に,ポリープ状病巣が高率に再発し,異常血管網は高率に拡大し,polypoidal CNVやclassic CNVを併発した.このことは長期的には狭義PCVに対するPDT単独の反復治療には限界があることを示しており,それ以外の治療法について検討する必要があると考えられた.PDTが良い適応にならない視力0.6以上の中心窩PCVに対するラニビズマブ硝子体内投与ではポリープの退縮は少ないが1年後平均視力は改善しており,短期的には有用と考えた.
6.結論
PCVはIA所見,OCT所見およびARMS2(A69S)遺伝子頻度分布が異なるpolypoidal CNVと狭義PCVに大別できた.狭義PCVは病理組織学的には脈絡膜細動脈硬化を特徴とした.Polypoidal CNVは加齢黄斑変性の網膜色素上皮下CNVの変型,狭義PCVは脈絡膜血管異常であると考えられた.中心窩を含む狭義PCVに対するPDT単独の反復治療の有用性は長期的には限界があった.さらなる検討によって治療のアルゴリズムを確立する必要がある.(日眼会誌116:200-232,2012)

キーワード
ポリープ状脈絡膜血管症, polypoidal CNV, 狭義ポリープ状脈絡膜血管症, インドシアニングリーン蛍光眼底造影, 臨床病理, 免疫染色, 硝子様細動脈硬化, 光干渉断層計, 遺伝子学, ARMS2(A69S), 光線力学療法, ラニビズマブ
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