論文抄録

第116巻第3号

評議員会指名講演II

第115回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演II
緑内障研究の進歩
より質の高い緑内障診療を目指して
柏木 賢治1)2)
1)山梨大学医学工学総合研究部地域医療学講座
2)山梨大学医学部眼科学講座

緑内障が持つ問題点を解決し,より質の高い緑内障診療を目指して以下の研究を行った.独自に開発した前房形態解析装置である走査型周辺前房深度計(scanning peripheral anterior chamber depth analyzer:SPAC®)を中心に,(1)閉塞隅角眼の横断的スクリーニング能力,(2)地域住民を対象とした前房形態の経時的変化と閉塞隅角眼発症率の検討,(3)開放隅角緑内障における前房形態変化の意義,(4)日常診療における前房隅角評価の活用について検討した.緑内障の病態解明のために網膜神経節細胞(retinal ganglion cell:RGC)に対する網膜グリア細胞と視神経アストロサイトの影響について培養細胞を用いて検討した.視神経アストロサイトのRGCに対する影響遺伝子の同定をマイクロアレイとsmall interfering RNA(siRNA)を用いて検討した.非受容体型チロシンキナーゼであるSRCは神経疾患の発症に関与することが注目されている.SRCのリン酸化を抑制または促進する2種の遺伝子変異マウスを作製し,in vivoならびにin vitro実験系においてRGCの生存や神経突起の変化について検討した.緑内障薬物治療の課題であるアドヒアランス向上を目的として新しい薬剤運搬システム(drug delivery system:DDS)を開発した.キトサンとアルギン酸ナトリウムの単分子膜を層状化し層間にラタノプロストを含有させた厚さ200 nm程度のナノシートを作製し,その眼圧下降能,副作用などを検討した.緑内障患者の診療への積極的参加のために情報通信技術(information and communication technology:ICT)を活用した新しい緑内障診療支援システムの構築とその有用性の検討を行った.本システムを用いて患者自身が診療データを閲覧することにより緑内障患者の緑内障のリテラシーが向上し,点眼治療がより効率的に行えること,その効果が長期間継続することなどが判明した.増加する患者数と不足する眼科医を支援するために,遠隔地から眼科医が操作可能で対面診療とほぼ同等の診断が可能な遠隔操作型細隙灯顕微鏡システムを構築しその診断能力を検討した.ICTを活用した診療データベースと眼科遠隔診療機器を組み合わせることで緑内障に対する新しい診療体制を構築することができた.(日眼会誌116:269-297,2012)

キーワード
緑内障, 前房隅角, 網膜神経節細胞, グリア細胞, SRC, バイオナノシート, 情報通信技術, 遠隔診療
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