背 景:Epidermal growth factor(EGF)受容体チロシンキナーゼ阻害薬であるエルロチニブ塩酸塩(タルセバ®)は非小細胞肺癌に対する内服治療薬であり,睫毛の長毛化の副作用が多く報告されているが,角膜障害の報告もある.今回,本薬剤を内服中に急激な角膜障害を認めた症例を報告する.
症 例:59歳男性で,右眼の急激な視力低下と眼痛を主訴に,当院呼吸器内科より紹介受診となった.肺腺癌に対しエルロチニブ塩酸塩を6か月前より内服中であった.外傷や眼科手術,糖尿病の既往はなかった.初診時右眼に炎症を伴った角膜上皮欠損を認め,矯正視力は(0.3)であった.エルロチニブ塩酸塩による角膜障害を考慮して1週間休薬し,抗菌薬点眼および眼軟膏を処方した.休薬後角膜病変は改善し,8週後に矯正視力は(1.0)まで回復した.
結 論:エルロチニブ塩酸塩は角膜障害を呈しうる.原因不明の角膜障害では,本剤の内服の既往に留意する必要がある.(日眼会誌116:510-515,2012)