論文抄録

第118巻第11号

平成25年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説

ストレス応答シグナル経路の阻害による視神経外傷後の神経細胞死の抑制
香留 崇
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野

Apoptosis signal-regulating kinase 1(ASK1)はストレスによって活性化されるmitogen-activated protein kinase kinase kinase(MAPKKK)の一つである.本研究ではASK1が視神経外傷による網膜変性に与える影響を検討した.ASK1欠損マウスでは野生型マウスと比較して,視神経外傷後の神経細胞死が抑制された.ASK1の下流では受傷後3時間でp38 MAPKの活性がピークとなった.そこで受傷後すぐにp38 MAPK阻害剤を野生型マウスの眼球内に投与したところ,やはり神経細胞死が抑制された.また光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)による同一個体の経時的観察により,p38 MAPK阻害剤による網膜内層の保護効果が確認された.さらに視神経損傷後にはmonocyte chemotactic protein-1(MCP-1)をはじめとするケモカインの上昇が,主に網膜神経節細胞で起きることが分かった.ASK1欠損マウスではこのMCP-1産生がほぼ完全に抑制され,ミクログリアの網膜内層への浸潤も抑制された.さらに培養ミクログリアを用いた検討から,ASK1またはp38 MAPKの阻害剤により,ミクログリアにおけるtumor necrosis factor(TNF)およびinducible nitric oxide synthase(iNOS)の産生が抑制されることが分かった.ASK1欠損マウスにおいては,視神経外傷後の網膜においてTNFとiNOSの発現量がほとんど増加しないことも確認された.以上から,網膜では神経細胞およびグリア細胞の両者におけるASK1―p38 MAPK経路の活性が神経細胞死に関与しており,同経路が視神経外傷に対する有用な治療標的である可能性が示された.(日眼会誌118:907-915,2014)

キーワード
視神経外傷, 神経細胞死, Apoptosis signal-regulating kinase 1(ASK1), p38 MAPK阻害剤, ミクログリア
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