背 景:2007年1月からBehçet病に対し,抗腫瘍壊死因子α抗体インフリキシマブ(infliximab:IFX)が適応認可され,眼発作頻度が減少し,視力予後が向上している.一方で,結核や肝炎の再燃など,IFXのさまざまな副作用が報告されており,Behçet病と同様の病態を持つ関節リウマチやCrohn病などの自己免疫疾患において,悪性腫瘍,特に悪性リンパ腫の発生が指摘されるようになった.今回我々は,IFX投与中のBehçet病患者に悪性リンパ腫を発症した1例を経験したので報告する.
症 例:62歳男性.47歳時にぶどう膜炎や口腔内アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍が出現し,不全型Behçet病と診断された.コルヒチンやシクロスポリン,プレドニゾロンを内服していたが眼発作を繰り返し,2007年8月よりIFXを導入した.導入後に眼発作は認めず,シクロスポリンを減量した.以後,8週ごとにIFXを投与されていた.2012年3月より全身倦怠感,体重減少が出現し,4月,IFX投与時の血液検査で末梢血中に異常細胞が検出され,IFXを中止した.骨髄穿刺にて中型~大型で,N/C比の大きな異型リンパ球を全体の18.4%に認め,組織学的検査でびまん性大型B細胞性リンパ腫と診断した.多剤併用化学療法8コースと抗癌剤の髄腔内投与を4回施行し,寛解が得られた.IFX中止後,現在まで眼発作は認めていない.
結 論:Behçet病眼症に対するIFX投与中に悪性リンパ腫を発症することがあり,注意が必要である.(日眼会誌118:440-445,2014)