論文抄録

第119巻第11号

平成26年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説

増殖硝子体網膜症の線維増殖組織形成におけるペリオスチン
石川 桂二郎
九州大学大学院医学研究院眼科学分野

増殖硝子体網膜症(PVR)は,網膜剥離や硝子体手術後に生じる重篤な眼合併症の一つである.PVRの病態は,網膜前後面の線維増殖組織を特徴としており,その瘢痕収縮により牽引性網膜剥離を引き起こす.現在のPVR治療の第一選択は,硝子体手術により線維増殖組織を取り除き,網膜を解剖学的に復位させることである.近年の硝子体手術の進歩にもかかわらず,PVRは,その再発による網膜剥離が不可逆性の視力障害の原因となるため,依然として予後不良な疾患といえる.そのため,PVRの発症病態の理解に基づいた,新たな分子標的療法の開発が期待される.PVRの疾患責任遺伝子を同定する目的で,我々はPVR増殖組織と正常網膜由来のRNAを用いて,約4万遺伝子のマイクロアレイ解析を行ったところ,ペリオスチンの発現が,網膜に比べて増殖組織で特異的に亢進していた.また,ペリオスチンは,PVR患者硝子体で高値を示し,PVR増殖組織の網膜色素上皮細胞に特異的に発現していた.In vitroで,ペリオスチン蛋白質の投与により,増殖組織の構成細胞であるヒト網膜色素上皮細胞の増殖,接着,遊走,コラーゲン合成が亢進した.これらは,ペリオスチンの受容体であるインテグリンαVを介したfocal adhesion kinase(FAK)とAKTのリン酸化による作用であることを明らかにした.また,ペリオスチン阻害によりトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β2あるいは患者硝子体依存性の細胞接着と遊走が抑制された.In vivo家兎PVRモデルにおいて,ペリオスチン阻害によりPVRの進行が有意に抑制された.以上より,ペリオスチンは,PVR増殖組織の発生進展に重要な因子であり,PVR治療の分子標的となる可能性が示唆された.(日眼会誌119:772-780,2015)

キーワード
創傷治癒, 線維化, 細胞外マトリクス
別刷請求先
〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1 九州大学大学院医学研究院眼科学分野 石川 桂二郎
keijishi@med.kyushu-u.ac.jp