論文抄録

第120巻第6号

症例報告

乳癌に対するnab-paclitaxel投与が原因と考えられた角膜障害の1例
細谷 友雅1), 森松 孝亘2), 田片 将士1), 三村 治1)
1)兵庫医科大学眼科学教室
2)井野病院眼科

背 景:微小管脱重合阻害薬であるnab-paclitaxel(nabPTX,商品名アブラキサン)は乳癌,胃癌,非小細胞肺癌,切除不能膵癌に対する新しいパクリタキセル製剤である.眼科的には囊胞様黄斑浮腫の副作用が報告されているが,角膜障害の報告は見当たらない.今回,本薬剤を使用中に角膜障害を認めた症例を報告する.
症 例:55歳女性.両眼の視力低下を主訴に乳腺外科より紹介受診となった.乳癌に対しnabPTX,トラスツズマブ,ペルツズマブ点滴加療を受けた2週後から症状が出現した.初診時矯正視力は右(0.3),左(0.5)で,両眼に角膜上方からの異型上皮侵入を認め,全体的に角膜上皮は粗造で左眼は小さな角膜上皮欠損を伴っていた.NabPTXのみ中止したところ角膜病変は改善し,4か月後に矯正視力は右(1.2),左(1.0 p)まで回復したためnabPTXによる角膜障害と診断した.
結 論:トラスツズマブ,ペルツズマブ併用により角膜障害が生じた可能性も否定できないが,nabPTX投与患者は角膜障害を呈しうる.原因不明の角膜障害をみたら,全身投与薬の副作用も念頭に置き診断,治療を行う必要がある.(日眼会誌120:449-453,2016)

キーワード
nab-paclitaxel(アブラキサン), 角膜上皮障害, 抗癌薬
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