論文抄録

第123巻第11号

受賞論文総説

平成30年度日本眼科学会学術奨励賞
黄斑円孔の閉鎖における翻転内境界膜弁の役割
塩出 雄亮
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学分野

難治性黄斑円孔に対する新たな術式として,内境界膜翻転法,内境界膜自家移植が報告されている.しかし,これらの術式が奏効するメカニズムは不明であった.そこで我々は黄斑円孔の動物モデルや培養Müller細胞を用いて,翻転した内境界膜が黄斑円孔の閉鎖に果たす役割について検討した.サル眼の黄斑円孔に対して内境界膜翻転法を行うと,翻転した内境界膜に沿ったグリア細胞の増殖および遊走を認めた.このことから内境界膜がグリア細胞の増殖,遊走の足場として機能する可能性が示された.培養Müller細胞を用いた検討では,内境界膜の構成成分がMüller細胞の増殖,遊走を促進した.そしてMüller細胞の活性化に伴って神経栄養因子や増殖因子の産生が亢進した.さらに,採取したヒト内境界膜そのものにも神経栄養因子や増殖因子が存在し,翻転した内境界膜弁によって神経栄養因子や増殖因子が円孔に供給される可能性が示された.以上の結果から,翻転した内境界膜弁はMüller細胞を介して黄斑円孔の修復機転を促すことが示唆された.(日眼会誌123:1020-1028,2019)

キーワード
黄斑円孔, 内境界膜, Müller細胞
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