Behçet病(以下,ベーチェット病)は発作と寛解を繰り返す全身性炎症疾患である.ベーチェット病の発症には複数の遺伝要因と環境要因の双方が関与していると考えられている.ゲノムワイド関連解析(GWAS)研究によりベーチェット病の疾患感受性遺伝子がこれまでに複数同定されてきたが,遺伝要因の全容解明には至っていない.我々はベーチェット病の疾患感受性遺伝子のさらなる同定と病態の解明を目的として過去最大規模の遺伝子解析研究を遂行した.本研究では,5か国の研究機関とベーチェット病の国際コンソーシアムを構築し,日本人,トルコ人,イラン人の検体(患者3,477例,健常者3,342例)を収集し,免疫に関連する遺伝子領域の一塩基多型(SNP)を高密度に配置したマイクロアレイであるImmunochip(イルミナ社)を用いてジェノタイピングを行った.本研究により,新たに6つの感受性遺伝子領域(IL1A-IL1B,RIPK2,ADO-EGR2,LACC1,IRF8,CEBPB-PTPN1)でp<5×10-8を満たすゲノムワイドレベルの相関が見出された.本研究で同定された多くの感受性遺伝子(IL1A,IL1B,LACC1,IRF8,CEBPB)が病原体に対する生体の防御機構である自然免疫に関わるものであった.さらに,機能解析では,IL1A-IL1B領域のSNPであるrs4402765のリスクアリルがinterleukin(IL)-1βの増加ならびにIL-1αの減少の双方に影響を及ぼすことが分かった.このことからベーチェット病では病原体に対する生体防御の異常が深く関与していることや,自然免疫の亢進だけでなく,一部の経路では抑制された免疫経路が疾患の発症リスクとなりうることが示唆された.(日眼会誌123:1029-1037,2019)