目 的:生体内でマイボーム腺の腺房細胞は,分化時に増殖を停止して細胞内に脂肪滴を蓄積し,その後,細胞が崩壊して蓄積した脂肪を細胞質とともにmeibumとして分泌する.脂肪細胞や脂腺細胞ではペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の活性化が細胞分化や脂肪滴の蓄積を誘導することが報告されている.PPARγの作動薬であるrosiglitazone(RSG)を用いて不死化ヒト培養マイボーム腺細胞の分化に及ぼす影響を検討した.
方 法:サブコンフルエントの培養細胞をRSGを添加した分化用培地で分化誘導し,細胞増殖と細胞死,脂肪滴形成を調べた.DNA合成細胞をBrdUラベル後に免疫細胞化学染色して計測した.死細胞から培地に放出された乳酸脱水素酵素の活性測定により細胞死を評価した.蛍光色素による中性脂肪染色で細胞中の脂肪滴を観察した.PPARγの標的遺伝子のうち,脂肪細胞と脂腺細胞の分化の際に発現が増加することが知られているCCAAT/エンハンサー結合蛋白質α(CEBPA),およびangiopoietin like 4(ANGPTL4)とperilipin2(PLIN2)の遺伝子発現量を逆転写定量polymerase chain reactionにより測定した.
結 果:50 μMのRSG添加により,有意に増殖細胞が減少し死滅細胞が増加したが,20 μM以下では有意差がなかった.細胞はRSG濃度に依存して微細な脂肪滴を蓄積した.また,50 μMのRSG添加培地で培養中に死滅して浮遊していた細胞にも脂肪滴が存在した.CEBPA,ANGPTL4,PLIN2の発現量はRSG濃度に応じて増加した.
結 論:マイボーム腺細胞の分化にはPPARγの活性化によるシグナル伝達が関係していると考えられた.(日眼会誌124:7-14,2020)