論文抄録

第124巻第3号

評議員会指名講演II

第123回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演II
難治性眼疾患への挑戦
眼内炎症性疾患の病態解明に向けて
蕪城 俊克1)2)
1)東京大学大学院医学系研究科眼科学教室
2)自治医科大学さいたま医療センター眼科

ぶどう膜炎の病態は動物疾患モデルを用いた研究などにより理解は進み,その成果はtumor necrosis factor(TNF)阻害薬などの新しい治療薬に応用されているが,依然として不明な点も多い.眼炎症性疾患であるBehçet病(以下,ベーチェット病),網膜血管炎,眼内リンパ腫に対して,その病態解明と新規治療法の開発に向けた我々の研究を報告する.
1.ベーチェット病の臨床像とリンパ球を活性化するHLA関連抗原の解析
ベーチェット病ぶどう膜炎は内因性ぶどう膜炎の中でも最も重篤なぶどう膜炎である.我々は新しいベーチェット病ぶどう膜炎の活動性評価法としてBehçet's disease ocular attack score 24(BOS24)を作成し,視力変化と有意に相関することを示した.一方,ヒト白血球抗原(HLA)はリンパ球への抗原提示に必要な分子で,ベーチェット病ぶどう膜炎ではHLA-B*5101またはA*2601陽性症例が約8割を占める.我々はHLA-A*2601を持つ症例は,視力予後不良例が多いことを報告した.またHLA-B*51のポケット構造と結合力の高いアミノ酸配列を三次元的分子力学シミュレーションにより選定する方法を考案し,ベーチェット病患者リンパ球との反応性が報告されている既知の抗原における親和性の高いアミノ酸配列を推定した.それらのペプチドはベーチェット病患者の末梢血リンパ球の増殖を有意に促進した.HLAと抗原ペプチドの親和性がリンパ球の活性化に直接関与する可能性が示唆された.
2.ぶどう膜炎における網膜血管炎の新しい理解
網膜血管炎はぶどう膜炎やさまざまな網膜疾患でみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)での画像所見上,動脈炎,静脈炎,毛細血管炎に分類される.我々はさまざまなぶどう膜炎疾患のFA画像を検討し,感染性ぶどう膜炎では非感染性ぶどう膜炎と比べて網膜動脈炎および動静脈閉塞が高率にみられることを見出した.この機序を明らかにするために,活動期のさまざまなぶどう膜炎疾患の硝子体液中の炎症性サイトカインを網羅的に検討した.ぶどう膜炎疾患では共通してTNF-αやケモカインが上昇しており,眼内リンパ腫ではinterleukin(IL)-10,急性網膜壊死ではinterferon(IFN)-α2,細菌性眼内炎ではIL-6,IL-17A,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)が特異的に上昇していた.ぶどう膜炎の原因疾患によって硝子体液中の炎症性サイトカインの発現パターンに特徴がみられることが明らかとなった.
3.眼内リンパ腫の診断と治療
近年,ぶどう膜炎に占める眼内リンパ腫の割合は増加しており,他のぶどう膜炎疾患と誤診されやすく,脳中枢神経系病変を来しやすいため生命予後の不良な疾患である.本疾患の明確な診断基準および標準治療は未だ確立していない.我々は,眼内原発リンパ腫に対し,メトトレキサート硝子体内注射,全身化学療法,予防的低線量全脳照射を組み合わせた治療の前向き研究を行い,本疾患の生命予後を改善し,脳再発を抑制できることを示した.一方,二次性眼内リンパ腫は眼・脳中枢神経系以外の臓器を原発としたリンパ腫が眼内に進展した状態である.二次性眼内リンパ腫の臨床像および治療成績を後ろ向きに検討したところ,さまざまな治療にもかかわらず再燃を繰り返し,きわめて予後不良であることが明らかとなった.眼内リンパ腫,特に二次性眼内リンパ腫に対する新たな治療法の確立が急務である.(日眼会誌124:220-246,2020)

キーワード
ぶどう膜炎, ヒト白血球抗原(HLA), 網膜血管炎, サイトカイン, 眼内リンパ腫
別刷請求先
〒330-8503 さいたま市大宮区天沼町1-847 自治医科大学さいたま医療センター眼科 蕪城 俊克
kaburakito@gmail.com