背 景:常染色体劣性ベストロフィン症は,常染色体優性遺伝を呈するBest病の病因遺伝子と同じBEST1遺伝子の変異を原因とし,特徴的な臨床所見を呈する網膜ジストロフィである.同疾患に関する海外の研究では,眼底異常に加えて高頻度に隅角閉塞を伴うと報告されているが,本邦ではこれまでに同病態の報告はない.今回,両眼の閉塞隅角症を合併した若年の常染色体劣性ベストロフィン症の症例を経験したので報告する.
症 例:16歳,女性.小学校就学時に視力低下を指摘され,両眼の先天網膜分離症と狭隅角と診断された.16歳時より両眼の眼圧が上昇したため,精査加療目的で東北大学病院を受診した.眼科的検査では,両眼に軽度の遠視性乱視を伴った矯正視力の低下(右0.8,左0.4)と両眼の浅前房と広範囲にわたる周辺虹彩前癒着を認めた.また,両眼底に黄斑浮腫を伴った限局性の黄斑部漿液性網膜剝離を認めた.眼圧検査や静的視野測定では異常はなかった一方,眼球電図では片眼のArden比の低下を認め,遺伝子検査でBEST1遺伝子にc.C763T,p.R255W変異をホモ接合体で認めたことより常染色体劣性ベストロフィン症の診断に至った.
結 論:本邦の常染色体劣性ベストロフィン症でも閉塞隅角症を併発することがある.(日眼会誌124:720-725,2020)