背 景:脂腺癌の好発部位は眼瞼であり,涙囊部に発生した症例の報告はまれである.今回,急速増大を来した涙囊部原発脂腺癌の症例を経験したので報告する.
症 例:76歳女性.半年前から左涙囊部の腫瘤を自覚し,九州大学病院眼科を受診した.左涙囊部皮下に腫瘤を触知し,磁気共鳴画像法(MRI)で長径14 mmの境界不明瞭な腫瘤を認めた.3か月後に腫瘤は26×21×33 mmに増大し,左眼窩内側,鼻涙管,篩骨洞,前頭洞に進展しており,生検で脂腺癌と診断した.眼瞼や涙丘に病変は認めず,全身ポジトロン断層法(PET)でも他の病巣を認めなかった.総線量64 Gyの重粒子線治療を施行し腫瘍は縮小したが,左顎下部にリンパ節転移を来し,頸部郭清術と化学放射線療法を施行した.
結 論:涙囊に脂腺癌が発生することがある.急速な経過をたどることがあり,注意が必要である.(日眼会誌125:117-121,2021)