論文抄録

第125巻第2号

症例報告

ピリメタミンにより加療した眼トキソプラズマ症の2例
山名 智志1), 武田 篤信1), 長谷川 英一1), 八幡 信代1), 下野 信行2)3), 園田 康平1)
1)九州大学医学部眼科学教室
2)九州大学病院グローバル感染症センター
3)熱帯病治療薬研究班

背 景:ピリメタミンは細菌や原虫の葉酸生合成阻害薬で海外ではトキソプラズマ症の治療で主に使用されている.我々は眼トキソプラズマ症に対してピリメタミンにより加療した2例を経験したので報告する.
症例1:58歳女性.左眼の霧視を自覚し,近医眼科にて左眼の網膜白色滲出性病変から眼トキソプラズマ症を疑われ,当科を紹介受診となった.血清抗トキソプラズマIgM抗体価上昇がみられ,眼トキソプラズマ症と診断した.アセチルスピラマイシン内服治療を施行したが著効なく遷延化したため,ピリメタミン内服治療を開始した.病変は沈静化し以後眼病変の再燃はない.
症例2:29歳女性.右眼に網膜滲出性病変が出現し,近医眼科にて右眼のぶどう膜炎と診断され,プレドニゾロン内服加療を開始した.その後,血清抗トキソプラズマIgM抗体価上昇から眼トキソプラズマ症と診断した.アセチルスピラマイシン内服を開始したが,増悪し右眼に牽引性網膜剝離が出現したため当科を紹介受診となった.両眼にクリンダマイシン硝子体内注射,右眼の牽引性網膜剝離に対して硝子体手術を施行した.病変は縮小傾向であったが残存を認めたためピリメタミン内服治療を開始し,病変は縮小した.ピリメタミン内服後4週目に薬剤性脳症となり,ピリメタミン投与を中止した.
結 論:眼トキソプラズマ症の遷延例にピリメタミンによる治療は有効であるが,副作用に注意する必要がある.(日眼会誌125:122-128,2021)

キーワード
眼トキソプラズマ症, ピリメタミン, 薬剤性脳症, アセチルスピラマイシン
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