論文抄録

第125巻第2号

症例報告

抗腫瘍薬トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合錠(FTD/TPI)投与中に角膜障害を来した1例
吉岡 誇1)2), 福岡 秀記2), 外園 千恵2)
1)藤枝市立総合病院眼科
2)京都府立医科大学眼科学教室

目 的:トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合錠(FTD/TPI)は,本邦で2014年に承認された経口抗腫瘍薬である.今回,FTD/TPIが原因と考えられる角膜障害を来した症例を経験したので報告する.
症 例:56歳女性.S状結腸癌多発転移のため,手術後化学療法を施行中である.術後化学療法を11か月間施行したが,腫瘍の拡大を認めFTD/TPIの内服を開始した.3コース終了し4コース開始直前から異物感・充血を自覚し,当科を紹介され受診した.視力は右1.0(矯正不能),左(1.0×-1.00 D),両眼の結膜充血を来しており,角膜のほぼ全周に異常上皮が侵入していた.両側性に角膜侵入した異常上皮の一部では,フルオレセイン染色性を有しており,さらに右眼には上方に角膜潰瘍を認めた.0.3%ガチフロキサシン点眼液および0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液両眼4回/日にて治療を開始した.FTD/TPIによる発熱を伴う貧血,心窩部痛のため内服が中止され,受診から1週間で結膜充血および角膜潰瘍は改善し,異常上皮も消退した.その後,抗腫瘍薬の変更に伴い結膜充血・角膜潰瘍は再燃せず,視力は右1.0(矯正不能),左(1.0×-1.00 D)と視力障害を来すことなく経過した.
結 論:FTD/TPIにより両眼性に角膜上皮障害を来す可能性がある.(日眼会誌125:129-135,2021)

キーワード
トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合錠, 角結膜上皮障害, 結腸癌, 抗腫瘍薬
別刷請求先
〒606-8566 京都市上京区河原町通り広小路上ル梶井町465 京都府立医科大学眼科学教室 福岡 秀記
hfukuoka@koto.kpu-m.ac.jp