スフィンゴシン1-リン酸(S1P)はさまざまな細胞プロセスに関与するリゾリン脂質メディエーターである.本研究ではS1Pが光誘導網膜障害の病態形成に関与しているかを検証した.光線曝露は視細胞株(661W細胞)の細胞内S1P濃度およびスフィンゴシンキナーゼ(SphK)活性を有意に増強させた.SphK1の発現は照度依存的に増加し,all-trans-retinalはSphK1の発現を有意に増強させた.また光線曝露はマウス網膜の視細胞外節でのSphK1発現を増強させた.S1PはAktのリン酸化を抑制し活性化型カスパーゼ-3の発現を増加させ,視細胞死を誘導していた.さらにSphK阻害剤硝子体内投与は光誘導網膜障害による外顆粒層の菲薄化と網膜電図のa波およびb波の振幅減少を抑制した.これらの結果から光線曝露が視細胞外節でのSphK1発現を増強させ視細胞内でS1Pの合成を誘導し,視細胞死が生じることで光誘導網膜障害を引き起こすと考えられた.これらのシグナルを抑制することが加齢黄斑変性を含めた網膜変性疾患の治療ターゲットになり得る可能性が示唆された.(日眼会誌125:1013-1022,2021)