目 的:Enhanced S-cone syndrome(ESCS)は網膜電図(ERG)でshort-wavelength-sensitive(S)錐体応答が増大する遺伝性網膜疾患であるが,網膜機能の進行性についてははっきりしていない.日本人ESCS症例に関して,ERGを含む長期臨床経過および遺伝学的特徴について後ろ向きに検討する.
対象と方法:ESCSと診断された9例を対象とし,このうち8例の初期臨床像は過去に報告されている.NR2E3遺伝子変異はSanger法で決定された.視力,光干渉断層計を用いた中心窩網膜厚,ERG所見について検討した.
結 果:初発症状を聴取できた7例は,就学前に夜盲を自覚していた.各施設の初診時平均年齢は36.2歳,平均観察期間は15.0年であった.初診時に視力不良であったほうの眼の視力は経過中に大きく変化していなかった.最終測定時の平均中心窩網膜厚は初回測定時に比べ有意に減少していた.特徴的全視野ERGおよびS錐体ERG所見は全例で観察された.20年以上の長期経過を追えた2例の錐体応答は明らかに減弱していた.全例でNR2E3遺伝子に両アレル変異が検出され,p.Arg104Gln変異が28%(5/18アレル)と最多であった.
結 論:ERGの結果から,ESCSは進行性の網膜変性疾患であることが確認できた.視力は黄斑部網膜分離を合併しなければ比較的長期にわたり維持される可能性がある.p.Arg104Gln変異が日本人ESCSの主要変異であると考えられた.(日眼会誌126:7-18,2022)