論文抄録

第126巻第10号

症例報告

肺腺癌の脈絡膜転移にanaplastic lymphoma kinase(ALK)阻害薬が著効した長期生存の1例
若月 慶1), 馬詰 和比古1), 根本 怜1), 岡野 哲也2), 後藤 浩1)
1)東京医科大学臨床医学系眼科学分野
2)東京医科大学病院呼吸器外科

背 景:近年,新規化学療法の開発などにより担癌患者の生存期間は延長し,転移性眼腫瘍に遭遇する機会も増えつつある.今回,視力低下を契機に肺癌が発見され,良好な経過を辿った症例を報告する.
症 例:39歳,女性.左眼の視力低下を主訴に精査加療目的で当院眼科を紹介受診となった.左眼眼底の黄斑部に黄白色の隆起性病変と一部に滲出性網膜【剥】離(ERD)を認め,転移性脈絡膜腫瘍が疑われた.ポジトロン断層法―コンピュータ断層撮影検査(PET-CT)で右肺と左眼後眼部への集積が確認されたため当院呼吸器外科に原発巣としての肺癌の精査を依頼したところ,肺腺癌の診断に至った.脈絡膜転移を伴うStage IVであったこと,anaplastic lymphoma kinase(ALK)遺伝子変異が確認されたことから,ALK阻害薬であるクリゾチニブによる治療が開始された.治療開始時には黄斑部を含むERDの拡大により視力は左0.04まで低下していたが,治療開始から1年4か月の時点でERDは消失し,視力は左0.6まで改善した.しかし,治療開始から2年後,視神経乳頭周囲に新たな転移を思わせる病巣が出現し,磁気共鳴画像検査(MRI)の結果,右前頭葉皮質などにも転移が確認された.血液―脳関門への移行がより良好なALK阻害薬であるアレクチニブ塩酸塩による治療に変更となり,その結果,脳転移巣ならびに傍視神経乳頭の転移巣は消失した.
結 論:現在,治療開始から6年が経過しているが,原発巣の再発はなく,良好な視機能を維持している.(日眼会誌126:814-819,2022)

キーワード
転移性脈絡膜腫瘍, 視神経乳頭転移, 肺癌, anaplastic lymphoma kinase(ALK)阻害薬
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