論文抄録

第126巻第11号

総説

令和3年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説
Posner-Schlossman症候群における眼圧上昇へのオートタキシンの関与
五十嵐 希望
東京大学大学院医学系研究科眼科学教室

我々は過去にリゾフォスファチジン酸(LPA)の産生酵素であるオートタキシン(ATX)が緑内障の病型ごとに前房水中で高値を示し,線維柱帯(TM)の線維化に影響するほか,眼圧上昇に関与することを報告した.本研究では,前房水中のサイトメガロウイルス(CMV)が陽性となったPosner-Schlossman症候群(PSS)患者における前房水中のATX濃度,および従来から開放隅角緑内障(OAG)の病態への関与が指摘されているtransforming growth factor(TGF)-βの濃度の,眼圧上昇への関与を検証した.CMV陽性PSS患者の前房水中ではATXおよびTGF-β1濃度が上昇しており,ATX濃度は眼圧と正の相関を示した.ヒトTM細胞(hTMs)をCMVに感染させたところ,ATXおよびTGF-β1の発現が上昇した.hTMsをCMVに感染させた培養上清を条件培地として作製し,hTMsおよびサルのSchlemm管内皮細胞(SCEs)に曝露したところ,hTMsの線維化が促進され,またSCEsの流出抵抗が増加した.これらの変化はATX阻害薬・LPA受容体拮抗薬・Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を添加することで抑制された.以上より,CMV感染によって前房水中のATX濃度が上昇し,TMの線維化および流出抵抗の増加を介して眼圧上昇が生じている可能性が示唆された.ATX-LPA経路および下流シグナルの抑制は,PSSに伴う続発緑内障の新たな治療のターゲットになりうる可能性が示唆された.(日眼会誌126:933-940,2022)

キーワード
オートタキシン(ATX), Posner-Schlossman症候群(PSS), サイトメガロウイルス(CMV), 続発緑内障, 線維柱帯(TM)
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