論文抄録

第126巻第11号

総説

令和3年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説
緑内障眼における眼血流障害と神経変性の経時的関係の解明
清田 直樹
東北大学大学院医学系研究科眼科学分野

緑内障は多因子疾患であると考えられており,眼圧上昇以外に,眼血流障害の病態への寄与が長く議論されてきた.近年,レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)という簡便に再現性よく眼循環を評価可能な機器が登場したことで,緑内障病態と眼血流障害の関係性についての研究が加速した.まず我々は,非緑内障眼と緑内障眼における群間比較や,緑内障眼の病期ごとにLSFG由来の血流値を比較することで,確かに緑内障眼で眼血流が低下しており,病期の悪化に伴い血流値が低下していくことを確認した.さらに,眼血流障害が視野障害を呈する前段階である前視野緑内障においてすでに起きていることや,ベースラインにおける眼血流障害がその後の視野障害進行に寄与することなどを発見し,眼血流障害が少なくとも視野障害に先行することが分かった.しかしながら,神経変性という構造変化も視野障害という機能変化に先行することが指摘されているため,血流障害と神経変性の経時的関係は不明であり,血流障害が神経変性の結果として廃用性に低下している可能性が否定できなかった.緑内障眼における眼血流障害が神経変性の原因なのか結果なのかという因果関係を明らかにするためには,両者の経時的関係を明らかにすることが重要である.そこで我々は,過去にLSFGと光干渉断層計(OCT)をいずれも5回以上撮像され,2年以上経過観察された開放隅角緑内障眼の縦断的なビッグデータを解析することで,高齢・頻脈・視神経乳頭上耳側部位のうち2つ以上を満たす患者の視神経乳頭部位では,視神経乳頭組織部血流低下がOCTにより観察される神経変性という構造変化に先行することを明らかにした.現在我々が緑内障として治療している患者において,全身因子や視神経乳頭部位によって,眼血流障害が原因として寄与する場合があることを世界で初めて明らかにした.(日眼会誌126:941-947,2022)

キーワード
緑内障, 光干渉断層計(OCT), レーザースペックルフローグラフィ(LSFG), 眼循環
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