論文抄録

第126巻第11号

総説

令和3年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説
超広角光干渉断層計による硝子体イメージングと近視性牽引黄斑症の病態解明
高橋 洋如
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学

強度近視眼では硝子体の液化が早期に起こり,硝子体と網膜の異常な癒着が網膜裂孔や網膜剝離の原因になると考えられているが,高い透明性や可動性により,硝子体を高解像度で可視化することは困難であった.我々は企業との共同研究にて,swept-source光干渉断層計(OCT)に高屈折度レンズを搭載し,撮影範囲を23×20 mm2,深度を5 mmまで拡張した超広角OCTを用いて,50歳以上の強度近視または非強度近視患者計500名の後部硝子体を撮影し,硝子体が描出された167眼の画像を観察した.その結果,強度近視眼では後部硝子体剝離(PVD)がより早期に起こっており,進行は非対称的で,後部ぶどう腫などによる強膜の歪曲に影響を受けていることが分かった.さらに,硝子体が複数の網膜血管に癒着を残して立ち上がる多発性PVD(multiple PVD)や,複数の層に分離しながら剝離する多層性PVD(multi-layered PVD)といった形状を観察した.
また,同機器にて6~30歳の小児および若年成人97眼の硝子体を撮影したところ,小児や青年では強度近視眼でのみPVDが観察され,その頻度は年齢とともに増加することが分かった.さらに,癒着した硝子体により網膜組織が剝離され,硝子体皮質が肥厚している病変を観察できた.
近視性牽引黄斑症への硝子体手術では,網膜の表面に膜状の硝子体皮質がしばしば観察されるが,硝子体癒着が近視性牽引黄斑症の発症にどのように影響するかは明らかではなかった.我々は,後部硝子体剝離が不完全な強度近視150眼を対象に,近視性黄斑分離症の有無で分類した比較解析および年齢・眼軸長・後部ぶどう腫・網膜血管への硝子体癒着を共変量にした多変量解析を行い,網膜血管への硝子体癒着が近視性黄斑分離症の有意な発症因子であることを示した.超広角OCTによる硝子体の網膜血管への牽引の観察は,近視性牽引黄斑症の診断と治療に有用である.(日眼会誌126:958-967,2022)

キーワード
近視性牽引黄斑症, 近視性黄斑分離症, 後部硝子体剝離, 網膜硝子体癒着, 病的近視, 後部ぶどう腫, 光干渉断層計
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