論文抄録

第126巻第12号

症例報告

Epstein-Barrウイルスにより急性網膜壊死を生じた1例
則川 晃希1), 新竹 広晃1), 大口 泰治1), 錫谷 達夫2), 木村 宏3), 石龍 鉄樹1)
1)福島県立医科大学医学部眼科学講座
2)福島県立医科大学医学部微生物学講座
3)名古屋大学大学院医学系研究科ウイルス学分野

目 的:Epstein-Barrウイルス(EBV)が原因と免疫学的に証明された急性網膜壊死の1例を報告する.
症 例:67歳,男性.当院受診9日前からの左眼の視力低下および飛蚊症を自覚し近医を受診したところ,後極部網膜の出血および耳側網膜に白色病変がみられたため,ぶどう膜炎を疑われ当科を紹介受診となった.当科受診時には中心窩の網膜白濁と硝子体混濁を認めた.受診時採血では,血清中ウイルス抗体価は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),単純ヘルペスウイルス(HSV),サイトメガロウイルス(CMV)がそれぞれ免疫グロブリン(Ig)G抗体価のみ陽性であり,血清中トキソプラズマ抗体価,β-D-グルカン,T-スポット.TBはいずれも陰性であった.その後,硝子体混濁が増悪したため,第30病日に硝子体手術を行った.この際,眼底所見として黄斑部ならびに周辺部網膜に網膜壊死病巣を認めたが,癒合所見などは認めなかった.硝子体手術時に採取した硝子体液のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果,HSV 1型,HSV 2型,VZVは陰性であり,EBVのみが陽性であった.また,初回手術時の硝子体液中のEBVのウイルス量は389,750 copies/mLと高値であった.その後,再び硝子体混濁の増悪がみられ,第40病日に再手術を行った.術中の眼底所見として,周辺部の網膜壊死病巣と血管の白鞘化の進行を認めた.血液検査ではEBV-IgG高値およびEBV-IgM低値であったことから,既往感染EBVの再活性化と考えられた.1回目,2回目手術時の硝子体液中および2回目手術時の全血中のEBV DNA量をreal-time PCRで解析したところ,硝子体液中で全血中に比して20倍以上高く,全身的なEBVの再活性に伴い眼局所でもEBV感染を来したと考えられた.
結 論:既往感染のEBVの再活性化時に,EBVによる網膜壊死を発症する可能性がある.(日眼会誌126:1057-1063,2022)

キーワード
Epstein-Barrウイルス(EBV), 急性網膜壊死, real-timeポリメラーゼ連鎖反応(PCR), ぶどう膜炎
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