論文抄録

第126巻第12号

症例報告

ジスルフィラムによる中毒性視神経症の1例
木村 友剛, 木村 徹
木村眼科内科病院

目 的:ジスルフィラムは慢性アルコール中毒に対する抗酒薬である.今回,ジスルフィラムによる中毒性視神経症を生じた症例を経験したので報告する.
症 例:62歳,男性.アルコール依存症の既往歴があり,ジスルフィラムを2年以上継続投与されていた.2か月前から両眼の視力障害を生じたため当院を受診した.初診時視力は右0.1(0.2),左0.3(0.4),中心フリッカ値は右22 Hz,左21 Hzであり,静的視野検査にて両眼の盲中心暗点を認めた.眼底所見として両眼の視神経乳頭耳側の軽度蒼白化を認めた.頭部磁気共鳴画像法(MRI)では異常を認めなかった.光干渉断層計(OCT)では,両眼の視神経乳頭耳側の網膜神経線維層の菲薄化および両眼の黄斑部の網膜神経線維層+網膜神経節細胞層+内網状層の菲薄化を認めた.ジスルフィラムによる中毒性視神経症を疑ったため薬剤投与を中止したところ,中止後1か月から徐々に視力および視野障害が改善し,1年後には右0.5(1.2),左0.8(1.2)となった.
結 論:ジスルフィラムは視神経障害を認めることがあり,発症機序として網膜神経節細胞内における中毒性のミトコンドリア代謝障害が疑われた.(日眼会誌126:1064-1070,2022)

キーワード
ジスルフィラム, 視神経症, キレート, ミトコンドリア, 網膜神経節細胞
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