論文抄録

第126巻第2号

症例報告

眼球結膜下および円蓋部に生じた孤立性線維性腫瘍の1例
山本 優一1), 盛 秀嗣1), 石田 光明2), 髙橋 寛二1)
1)関西医科大学眼科学教室
2)関西医科大学病理診断学教室

目 的:孤立性線維性腫瘍(SFT)は間葉系細胞由来のまれな腫瘍であり,主に胸膜などに発生する.今回,我々は本邦で報告のない眼球結膜下に発生したSFTを経験したため報告する.
症 例:51歳女性.約1年前から左眼の眼球結膜に米粒大の腫瘤を自覚し,徐々に拡大傾向を認めた.眼球運動時や瞬目時に違和感を自覚するようになり前医を受診したところ,左眼の眼球結膜内眼角部に血管を伴う腫瘤を認めたため,関西医科大学附属病院を紹介受診した.初診時の矯正視力は右0.7,左1.0,眼圧は右21 mmHg,左18 mmHgであった.左眼の眼球結膜鼻下側および円蓋部に大きさ9.5 mm×6.0 mm,色調は乳白色,辺縁はやや不整の充実性腫瘤を認めた.乳癌の既往歴があったため転移性眼球結膜下腫瘍を疑い,左眼結膜下腫瘍摘出手術を施行した.摘出した腫瘍はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で紡錘形細胞と介在する膠原線維が特定の配列を示さないpatternless patternを認め,切除断端は一部陽性であった.免疫染色では,CD34,vimentin,signal transducer and activator of transcription 6(STAT6)は陽性,S-100,smooth muscle actin(SMA),AE1/3,c-kitは陰性,Ki-67 indexは3%であった.以上の組織所見から,SFTと確定診断された.術後12か月の時点で腫瘍の再発を認めず,経過は良好である.
結 論:眼球結膜下腫瘍では臨床所見のみでSFTと診断することは非常に困難であり,本症例のように病理診断により確定診断することができる.局所再発もしくは遠隔転移の可能性もあるため,長期的に経過観察を行う必要がある.(日眼会誌126:183-188,2022)

キーワード
眼球結膜下腫瘍, 孤立性線維性腫瘍, signal transducer and activator of transcription 6(STAT6)
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