論文抄録

第126巻第4号

症例報告

異なる起因菌により複数回の感染を来した濾過胞関連眼内炎の1例
野中 椋太, 馬詰 和比古, 曽根 久美子, 馬場 良, 後藤 浩
東京医科大学臨床医学系眼科学分野

背 景:濾過胞関連眼内炎(BRE)は緑内障に対する線維柱帯切除術から長期経過した後に生じる可能性のある視力予後が不良な疾患である.今回,異なる起因菌によって複数回のBREを生じた1例を経験したので報告する.
症 例:63歳,男性.右眼の突然の眼痛および視力低下を来し,BREの疑いで当院を紹介受診となった.8年前に他院で線維柱帯切除術を受けた既往があった.当院初診時の矯正視力は右0.03であり,右眼球結膜の耳側に広範囲の無血管濾過胞と毛様充血,前房蓄膿を認めた.眼内レンズ(IOL)挿入眼であり,眼底は硝子体混濁のため透見困難であった.StageIIIbのBREの診断のもと,抗菌薬による治療とともに硝子体手術を施行し,術後2か月で矯正視力が右1.2まで改善した.培養検査では硝子体からAcinetobacter属が検出された.しかし,初回手術から5か月後,初回よりも重度のBREを発症した.再発時の視力は右30 cm手動弁(矯正不能)で高度な前房蓄膿がみられ,眼底は透見困難であったため,薬物療法とともにIOL摘出および硝子体手術を施行した.初回と異なり,硝子体からはStreptococcus属が検出された.術後,感染症状は徐々に沈静化したが低眼圧が持続し,脈絡膜剝離および滲出性網膜剝離を生じた.硝子体腔内に空気注入などを施行するも効果は一過性であったため,シリコーンオイル充填術を行った.その後,シリコーンオイルを抜去したが網膜は復位を維持し,感染の再発もみられず,矯正視力は右0.03,眼圧は15 mmHgを維持している.
結 論:線維柱帯切除術後には異なる起因菌によって複数回のBREを発症することがある.(日眼会誌126:457-462,2022)

キーワード
濾過胞関連眼内炎, 線維柱帯切除術, 硝子体手術
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