論文抄録

第127巻第1号

臨床研究

無散瞳下における皮膚電極を用いた多局所網膜電図の刺激輝度についての検討
中村 詠士1), 前田 秀高2), 松岡 孝典1), 松田 理1), 大鳥 安正1)
1)独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科
2)前田眼科

目 的:多局所網膜電図(多局所ERG)の記録において,無散瞳下でも散瞳下と同等の応答を記録するための刺激輝度について検討すること.
対象と方法:健常成人10例10眼を対象とした.多局所ERGの記録には37個のエレメント,75 Hzの擬似ランダム刺激,皮膚電極を用いた.無散瞳下で200,500,1,000,1,250,1,500 cd/m2の5つの刺激輝度を用いて多局所ERGを記録し,領域ごとの各グループ波形(ring 1~4)における網膜応答密度を散瞳下の結果と比較した.また,記録中に瞳孔径を計測し,Stiles-Crawford効果(SCE)を考慮した有効網膜照度を算出した.
結 果:無散瞳下で記録した瞳孔径の平均は200 cd/m2では3.43 mmであったが,1,500 cd/m2では2.52 mmとなった.SCEを考慮した有効網膜照度は,無散瞳下では1,000 cd/m2の刺激輝度を用いた場合に散瞳下の値と最も近似した.P1振幅は刺激輝度が高輝度になるにつれ増大し,1,250 cd/m2で最大となった.中心部と周辺部領域のP1振幅の比については,500 cd/m2と1,000 cd/m2の刺激を用いた際の網膜応答密度の分布が散瞳下のそれと近似した.
結 論:多局所ERGにおいて,刺激輝度を工夫することで無散瞳下でも散瞳下と同等の応答記録が可能であった.無散瞳下で用いる刺激輝度としては,散瞳時の5倍に相当する1,000 cd/m2が適切と考えられた.(日眼会誌127:19-25,2023)

キーワード
無散瞳下, 皮膚電極, 多局所網膜電図(多局所ERG), 有効網膜照度, Stiles-Crawford効果(SCE)
別刷請求先
〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14 国立病院機構大阪医療センター眼科 中村 詠士
eijin0314@gmail.com