論文抄録

第127巻第1号

臨床研究

神経麻痺性角膜症の臨床像と治療予後
山口 剛史, 笠松 広嗣, 松前 洋, 谷口 紫, 平山 雅敏, 冨田 大輔, 福井 正樹, 島﨑 潤
東京歯科大学市川総合病院眼科

目 的:神経麻痺性角膜症は角膜上皮欠損や角膜実質融解,角膜穿孔を来す難治疾患の一つである.近年,ヒト神経成長因子の点眼や角膜知覚再建術などの新しい治療法が登場した.本研究では,東京歯科大学市川総合病院眼科(以下,当院)での神経麻痺性角膜症の臨床像と治療予後を検討した.
対象と方法:2010~2021年に当院で神経麻痺性角膜症と診断された39例45眼〔男性18例20眼,女性21例25眼,年齢52.3±22.3歳(平均値±標準偏差),経過観察期間47.9±5.1か月〕を対象とし,原疾患,角膜知覚,視力,Mackie Stage分類,合併症について検討した.
結 果:原疾患は,角膜ヘルペスが25眼(56%),脳腫瘍術後が7眼(16%),眼類天疱瘡が4眼(9%),糖尿病が2眼(4%),先天性三叉神経低形成が2眼(4%),脱髄性多発神経炎が1眼(2%),原因不明が4眼(9%)であった.Mackie Stage分類は2.3±0.9,角膜知覚はCochet-Bonnet角膜知覚計で1.3±1.2 cmであり,健眼(5.7±1.0 cm)と比較して有意に低下していた(p<0.001).視力〔logarithmic minimum angle of resolution(logMAR)〕は,治療前1.62±0.95から治療後1.19±1.03となり有意に改善した(p=0.019).小数視力0.1以下は治療前で31眼(69%),治療後で22眼(49%)であり,視力後遺症の原因として角膜混濁に伴う不正乱視が多くみられた.眼合併症として,緑内障が8眼(18%),角膜感染症が8眼(18%),角膜上皮幹細胞疲弊症が7眼(16%),全身合併症としてアトピー性皮膚炎が11眼(24%)にみられた.
結 論:神経麻痺性角膜症は現在の治療法により視力が改善するものの,重度の視力障害を来す症例も多く存在した.今後,角膜知覚再建術などの新規治療の効果を検討する必要があると考えられた.(日眼会誌127:26-31,2023)

キーワード
神経麻痺性角膜症, 原疾患, 合併症, 角膜上皮幹細胞疲弊症, 視力予後
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