目 的:特発性黄斑上膜(ERM)に対し硝子体手術を施行することで,術後に最高矯正視力と変視が改善するとともに立体視も改善することが知られている.今回,ERMに対する硝子体手術後の立体視の予後に関わる因子について検討した.
対象と方法:対象は2019年10月~2021年3月に東京医科大学病院眼科で硝子体手術を施行した片眼性ERM 28例(平均年齢65.7歳)である.全例に内境界膜剝離を施行し,必要に応じて白内障に対する手術も併施した.解析した検査項目は,視力,変視,立体視の程度である.M-CHARTS™を用いて水平経線の変視量(以下,MH)と垂直経線の変視量(以下,MV)を測定し,Titmus Stereo Testを用いて立体視を測定した.術前と術後3か月の最高矯正視力,MHおよびMV,立体視を分析し,これらの検査結果から術後の立体視に関わる因子を検索した.
結 果:硝子体手術により,最高矯正視力〔logarithmic minimum angle of resolution(logMAR)〕は術前0.32±0.18(平均値±標準偏差)から術後0.02±0.06に有意に改善した(p<0.0001).MHは術前1.09±0.60°から術後0.62±0.59°(p<0.0001),MVは術前0.84±0.50°から術後0.63±0.52°(p<0.05)に有意に改善した.立体視(log)は術前2.51±0.71から術後2.15±0.66に有意に改善した(p=0.0001).術後の立体視は,術後の視力(r=0.599,p<0.001),術前のMH(r=0.581,p=0.001),および術後のMH(r=0.600,p<0.001)と有意な正の相関関係があった.重回帰分析の結果,術後の視力(β=0.348,p<0.01),術前のMH(β=0.406,p<0.01),および術後のMH(β=0.74,p<0.001)が,術後の立体視の予後に関わる重要な因子であった.
結 論:片眼性ERMに対する硝子体手術後の立体視に関わる因子として,水平経線の変視が重要であることが示唆された.(日眼会誌127:839-843,2023)