論文抄録

第127巻第10号

症例報告

一側の視神経管骨折と他側の低眼圧黄斑症を併発したLe FortIII型骨折の1例
恩田 秀寿, 宮崎(西崎) 理恵, 木崎 順一郎, 桂 沙樹
昭和大学医学部眼科学講座

背 景:Le FortIII型骨折は視神経管骨折を合併する可能性があり,さらに複数回の顔面殴打が伴えば眼球外傷を引き起こしうる.Le FortIII型骨折に一側の視神経管骨折と他側の低眼圧黄斑症を合併した症例を報告する.
症 例:43歳,男性.暴漢に鉄パイプで顔面を複数回殴打されたのちに意識を消失し,救命救急科に搬送され,多発顔面骨骨折(Le FortIII型骨折合併)および多発脳挫傷と診断された.患者は,意識回復後に両眼の視力低下に気づいた.受傷後33日目の前医眼科診察時に両眼の外傷性視神経症と診断されたが経過観察となり,その後も視力が改善しないため,受傷後62日目に当院眼科を紹介受診となった.視力は右(0.7),左(0.3),眼圧は右3 mmHg,左12 mmHgであった.両眼とも中等度散瞳でかつ瞳孔不同があり,左眼に相対的瞳孔求心路障害を認めた.右眼黄斑部に車軸状の網膜皺襞,および左眼視神経乳頭の蒼白化を認めた.右眼の低眼圧黄斑症および左眼の視神経管骨折と診断し,受傷後69日目に右眼の輪状締結術,受傷後90日目に左眼の視神経管開放術を行った.右眼眼圧は術後早期より上昇し,左眼視力は徐々に回復した.受傷から約1年後の視力は右(1.2),左(0.8),眼圧は右12 mmHg,左10 mmHgであった.
結 論:顔面多発外傷後は,両側の瞳孔括約筋損傷のために対光反射が不明瞭なことが想定される.Le FortIII型骨折に両眼の視力障害を伴う場合には,両眼に同時発生する眼球外傷や外傷性視神経症を念頭に眼科診察を行うことが重要である.(日眼会誌127:850-858,2023)

キーワード
低眼圧黄斑症, 外傷性視神経症, Le FortIII型骨折, 視神経管骨折, 視神経管開放術
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