論文抄録

第127巻第11号

総説

令和4年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説
腸球菌性眼内炎に対する新規治療法および予防法としてのファージ療法の開発
岸本 達真
高知大学医学部眼科学講座

腸球菌による眼内炎は視力予後が不良である.また,薬剤耐性菌による眼内炎の報告も増加しており,抗菌薬の代替となる新規治療薬および予防薬の開発が必要である.バクテリオファージ(以下,ファージ)とは細菌に感染し,溶菌するウイルスであり,その溶菌活性を細菌感染症治療に応用するのがファージ療法である.今回我々は,腸球菌性眼内炎に対するファージ療法について検討した.バンコマイシン塩酸塩感受性腸球菌およびバンコマイシン塩酸塩耐性腸球菌(VRE)性眼内炎モデルマウスに対し,腸球菌ファージphiEF24C-P2を硝子体内に投与したところ,眼内の炎症が抑制され,腸球菌生細菌数は減少し,網膜構造・機能が維持された.次に,VREを含んだより広範囲の腸球菌株に対し溶菌活性を有するファージとして,phiEF7H,phiEF14H1,phiEF19Gを分離した.ゲノム解析の結果,3つのファージはHerelleviridaeKochikohdavirusに分類され,溶原性,毒性,薬剤耐性の遺伝子を有さず,ファージ療法に適していると考えられた.これらのファージをマウス腸球菌性眼内炎モデルに投与したところ,治療効果がみられた.さらに眼内炎の発症予防を目的とし,家兎白内障手術後眼内炎モデルに対し,ファージphiEF24C-P2の前房内投与を行った結果,網膜機能障害は生じず,眼内炎の発症が抑制された.以上より,ファージ療法が抗菌薬の代替となる新規眼内炎治療薬および予防薬となる可能性が示唆された.(日眼会誌127:1022-1030,2023)

キーワード
細菌性眼内炎, バクテリオファージ, 腸球菌, 薬剤耐性菌
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