論文抄録

第127巻第11号

総説

令和4年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説
日本人集団を用いた睡眠とドライアイ症状に関する疫学的な知見
羽入田 明子
慶應義塾大学医学部眼科学教室

これまでの疫学研究から,ドライアイの発症や増悪には,さまざまな生活習慣や環境要因が密接に関わっていることが示唆されている.睡眠は我々の生活に不可欠な生理現象であり,睡眠障害は肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症や全死亡率とも関連があることが分かってきた.そこで,本研究では,次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT Study)ベースライン調査(2011~2016年実施)に同意した40~74歳の健常人約10万人のアンケート結果に基づいて,睡眠時間および睡眠の質(寝つきの悪さ,中途覚醒,起床時疲労感)とドライアイの有病率の関連を横断的に検証した.二項ロジスティック回帰分析を用いて検討した結果,睡眠時間が1日5時間以下のグループは,睡眠時間が1日8時間のグループに比べ,男女ともにドライアイの有病率が約2倍であった.また,男性において,睡眠時間とドライアイの関連はU字型を示した.さらに,睡眠の質に関しては,寝つきの悪さ,中途覚醒,起床時疲労感を“ほぼ毎日自覚する”グループは,“ほとんど自覚しない”グループに比べ,ドライアイの有病率が統計学的有意に高かった(寝つきの悪さ,中途覚醒,起床時疲労感の順に,男性:2.23倍,1.89倍,3.89倍,女性:1.91倍,1.70倍,2.84倍,p<0.001).本研究から,睡眠時間と睡眠の質の両方がドライアイと関連しており,1日7~8時間の質の高い睡眠を心がけることがドライアイの予防に有効である可能性が示唆された.(日眼会誌127:1031-1038,2023)

キーワード
ドライアイ, 疫学, 生活習慣, 睡眠障害, 予防医学
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