異なる介入因子による効果を推定する際に,無作為化比較試験は最も優れた研究デザインとされているが,実際には労力や倫理的な側面で行えないことがある.傾向スコア解析法は,既知の背景因子の違いによって生じるバイアスを縮小して比較できる手法で,疑似ランダム化と表現される統計手法である.今回我々は,トラベクトームに対するマイクロフックの術後1年成功率に関する非劣性について,傾向スコアを使用し示した(TramTrac Study).調整前には術前眼圧などさまざまな因子で両群に差があり,単純な術後成績の比較では両術式の有効性を適切に推定できなかった.傾向スコア解析法により両群の交絡因子の影響を同等にし,適切な効果の推定が可能となった.
傾向スコアには,マッチング法・逆数重みづけ(IPTW)法・層別化法・回帰による調整法などさまざまな解析法が存在する.Tram Trac Studyではこれら4種の解析を行い,すべての結果において,リスク差の95%信頼区間が設定した非劣性マージンよりも小さいことを確認し,トラベクトームに対するマイクロフックの非劣性を統計学的に証明した.
このように傾向スコアは優れた手法であるが,眼科分野での報告は未だ少数である.本稿においては,Tram Trac Studyを代表例として傾向スコアの概要を示しながら,各解析法の長所・短所を明示している.眼科医である読者が今後,傾向スコアを使用しエビデンスレベルの高い比較研究を行うにあたっての一助となるであろう.(日眼会誌127:1039-1049,2023)