目 的:脳回状脈絡網膜萎縮症(GACR)は,本邦ではまれな常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の先天性代謝異常症で,ビタミンB6(VitB6)依存性オルニチンアミノ基転移酵素活性の低下による高オルニチン血症を特徴とし,進行性の脈絡網膜変性を来す.今回,GACR症例を報告するとともに,過去の日本人GACR報告例の遺伝学的解析結果と比較検討した.
症 例:3歳,男児.外斜視の精査を目的に紹介受診となった.以前より夜盲を呈していたが,明らかな眼底異常はなく経過観察となった.6歳時の眼底検査で両眼の耳側網膜周辺部に特徴的な脳回状の網脈絡膜萎縮がみられた.全視野刺激網膜電図の杆体系・錐体系反応はいずれも消失していた.高オルニチン血症を認め,GACRが疑われたため,VitB6投与を開始したが,血中オルニチン値は低下しなかった.低蛋白質食治療を併用したところ血中オルニチン値は低下した.最終的に必須アミノ酸を補った蛋白質制限とVitB6投与によって血中オルニチン値の低下が維持された.全エクソーム解析を行い,ornithine aminotransferase(OAT)遺伝子に複合ヘテロ接合性変異(p.Arg271Lysとp.Arg426Ter)が検出された.8歳時の眼底検査で網脈絡膜萎縮は明らかに拡大していた.
結 論:低蛋白質食治療とVitB6投与の併用によって血中オルニチン値の低下が維持されたが,網脈絡膜萎縮は進行性に拡大した.本症例も含め,過去の日本人GACR症例(13例)のOAT遺伝子変異をまとめた結果,p.Arg426Terが高頻度変異(27%,7/26アレル)であることが見出された.(日眼会誌127:1069-1080,2023)